去る3月24日、ヴィーン放送響の主席、J.グライヒヴァイトさんを囲む一席がありましたので報告します。
ご存知の通り、昨年のヴィーンで新進気鋭の楽器製作家フランク・ハンマーシュミットさんが自分の楽器とともにデモンストレーターとして連れていらしたのが彼で、その時の参加メンバーにとっては共にホイリゲで夕食を共にして以来約半年ぶりということになります。当日の出席者はご本人以下Kn委員長、Gm広報部長、Kt第一インペク、ゲストにその日F.H.のユーザーとなったTy氏と薄給(飲会無料参加権)にて当会の翻訳家を引き受けて下さった氏の御姉様?通訳・翻訳を生業としていらっしゃいます?、そして私の7名。(当日キャンセルのEdさん、残念でした。) 委員長の発案で彼の宿泊先の近く、都内某所にて日本の伝統的なスタイルであるとか何とか言いながら鴨鍋をつつくことに。
最初の話題は当然F.H.の楽器についてですが、そもそも今回の席が設けられたのも彼が先年に続いて“お試し用”楽器(ベーム式、エーラー式其々)をHolzに見せようとグライヒヴァイトさんを“運び屋”に使ったことによるもので、昨年同じように楽器を運んでくれたシュミット先生といい、今回のグライヒヴァイトさんといいヴィーンの方はみなさん良い方ばかりで…。
さて、話に聴く彼のF.H.(の楽器)に対する評価が高いことに一同ビックリ! 一番評価している所は研究熱心なところで、奏者の意見を聴いて常により良いものを、という姿勢が素晴らしいとか。 そう言えば、2月のコンサート後の夕食を共にしていろいろとお話をしたM・プライスさんも、楽屋を訪ねてF.H.の楽器を吹かせてくれた時にはやはり同じ点を評価して居られました(プライスさんの楽器はココボロ/金メッキ仕様ですが、比較的柔らかい材質(ココボロ)のためトーンホールにグレナディル?グラナディラ?をはめ込んで強度を上げるとかキーの配置をオフセットにするなど彼の意見が随所に見られます。これらはフランク本人曰く「もう標準装備だよ!」だそうな)。
このようにプレーヤーの考えや意見が取り入れられ、少しずつ自分の理想の楽器に近づいて行くのは素晴らしいというグライヒヴァイトさんの言葉にはメンバー一同、素直に肯首。
話がC管に及んだ時には、他の工房とは異なりB/A管のマウスピースをそのまま使えるということもあって特に評価が高く、R.シュトラウスの“ダフネ”を例に、その良さを力説されていました。これには委員長が「C管はフランクに買い替えねばなりませんかな!?」と思わず考え込むこと暫し? しかしこういう時にR.シュトラウスのオペラが引き合いに出される所はさすがにヴィーナーだな、と感心する私?
スタンダードなB/A管についてもオットマー(オーストリアでセルマーの総代理店だというO.ハンマーシュミットの話は結構面白いものが…)との違いや、ヴーリッツァーとの比較まで身振り手振りを交えた熱のこもった意見を聞くことができました(曰く、音が1点に収斂している感覚のヴーリッツァーのようなドイツ・タイプより、周囲に一様に響くヴィーン・タイプが好みだとのこと。やはりヴィーンの方ですね)。 当然、彼もFH01を使用されていますが、聞く所によるとザルツブルク・モーツァルテウムの主席、F.シュタイナー氏やヴィーン・フォルクスオーパーの第2奏者M.ラウフ氏といった方々がF.H.に切り替えるそうで、さらにはヴィーン交響楽団のG.パッヒンガー氏も考慮中とか(シュミット先生父子もそのようなことをおっしゃっていたような…そうですよね、インペク)。昨年、「最近ちょっと良い楽器があるんだ」と我々に初めて“フランク・ハンマーシュミット”の名を教えてくれたのがベルリン支部長だったのですが、予想以上に評価されているようです。
彼はその支部長W.フックスさんの後任として現在のシュテレに居るということですので、その辺のことを伺うと、ヴィーンの学校でも「ヴェンツェルが出た時に入れ替わりで入った」そうです。 ロイトナーさんのことも当然ご存知で、自身時折“NT”を使っているとか。クラスメイトにはヴィーン・フィルのA.ヴィーザー氏をはじめ、やはり我々の知っている名前がずらり。 シュミードル教授のクラスついては「トップレヴェルの生徒達がお互いにより高い所を目指して切磋琢磨するので良い結果が出るんだ」と語ってくれました。
また、先日ザンデルリンク指揮ベルリン・フィルのコンサートでトップを吹いていたというヴィーン・クラリネット・コネクションのH.ヘーデル氏(ベルリーンのT.ライヒレさんからの情報)についても「このグループのメンバーは皆友人で、ヴィーンやグラーツの音楽院で一緒だった」そうで、とても嬉しそうでした。新幹線の都合でTyさん姉弟が途中退席されたあとには、今回自ら運んできたF.H.の“お試し”楽器について意見交換をしたのですが、特にベーム式の方について「ベーム・システムなのにドイツ式の音がするんだ…」と言いつつも小指で操作するキーのバランス、配置が今一つだということでした(試奏された谷尻先生もやはり同じ点を指摘されたそうです)。 しかし、「だけど、僕にはベーム式は難しくてね」の一言には一同大爆笑。
他にも現在当会の一部でホットな話題であるバンベルクの新鋭シュヴェンク&ゼゲルケの楽器についてや距離的には近いのに、それぞれの音に大きな隔たりがあるオーストリアとチェコやスロヴァキアのクラリネットについての私見、O.ハンマーシュミット以外のヴィーンの製作家のことなど興味深い話題に、充実した一時だった事を最後にお伝えしたいと思います。ヴィーンでの印象は席が遠かった事もあって“物静かな方”でしたが、そんな物腰柔らかな中にも時には熱く、また時には客観的に語る彼、グライヒヴァイトさんは「良い先生の良い音をいつも身近に聴くことはとても大事なことだよ」とおっしゃる、揚げ出し豆腐と銀杏の好きな、気さくな方でした。
(99/4/20 by Hd)