現代のクラリネットには、皆さんご存知のように、大きく分けて「フランス系=ベーム式」と「ドイツ・オーストリア系=エーラー式・ウィーンアカデミー式」とがあります。今日、クラリネットの音色や奏法は、過去に較べ随分とインターナショナルになって来たと言われていますが、それでも楽器のシステム・音色の好みなどで、いまだに厳然とした違いが存在しているように感じられます。フランス系の明るく華やかな音色に較べ、ドイツ・オーストリア系は芯がありながらも穏やかで温かみのある音色を身上としています。会員諸氏の多くは、アンソニー・ベインズの名著「木管楽器とその歴史」の中の『最も優れたドイツ人奏者たちにこの楽器を持たせれば、すべての楽器から得られうるうちで最も幅広く、クリームのようになめらかな音が得られる。』という一節に胸をときめかせた経験を持っています。
世界的に見ますと97%以上 のクラリネット奏者がフランス系つまりベーム式のクラリネットを吹いていると言われ、日本でもベーム式が主流を占めているのですが、その中でごくわずかながらドイツ・オーストリア流の音色に魅せられてしまったアマチュアのクラリネット吹きたちがひっそりと棲息し続けているのです。この人々は、少数派であるために、楽器やリードに関する情報も極めて少なく、また所属するオーケストラや吹奏楽団のクラリネット・パートの仲間ともなかなか話が合わず、孤独な毎日を送っていました。そんな鬱々とした状況に一条の光が差し込んだのが「ホルツの会」の設立でした。待望の会ということもあって、設立以来会員の数は順調に増加し、現在の会員数は、国内外のプロ・アマチュアを含めて約90名に達しています。本家のドイツでは「ドイツ・クラリネットの危機」が憂慮されているそうですが、極東の日本でこのような会が健闘しているのは、なんとも不思議な気がします。
会のひろがりとしては、東京を本部として国内数箇所に支部を持ち、加えてウィーンフィル・ベルリンフィルをはじめとする海外の演奏家の方々を名誉会員に迎えて、Wien・Salzburg・Berlin・Detmold・Karlsruhe・Kassel・Cambridge
にも支部を構えています。ですが、支部といっても半分は洒落で、名誉会員来日時に
ホルツ会員が飲み相手を務めるというのが実態に近いところです。
現在「ホルツの会」は、毎月1回の例会を開催し、ドイツ・オーストリア管によるアンサンブルや、Wien
式リードの作り方講座など、これまでの情報不足や欲求不満を一気に解消するような生き生きとした活動を続けています。また、会の活動の一環として、Peter
Schmidl教授によるクリニックや、Berliner Philharmoniker のクラリネット・セクションによるアンサンブルの会を主催したり、世界的なクラリネット収集家である
Nicholas Shackleton卿との情報交換を図るなど、海外演奏家等との交流も活発に行っています。
会員諸氏が現在所有しているエーラー式・ウィーンアカデミー式の楽器は、コントラバスクラリネット・バスクラリネット・バセットホルンからA管・B管・C管・D管・Es管・G管 と多岐にわたっています。 また、それらの楽器の製作者もOskar Oehler・Ludwig Warschewski・Franz Koktan・F.A. Ubel・Clemens Meinel・Gustav Mollenhauer・Fritz Wurlitzer・Herbert Wurlitzer・Karl Hammerschmidt・Otmar Hammerschmidt・Frank Hammerschmidt・Oskar Neidhardt・Karl-Friedrich Todt・Lothar Reidel・Schwenk & Seggelke・Wolfgang Dietz・Yamaha など極めて多様です。
フルトヴェングラーの言葉を胸に、今後は「音楽」も創って行きたいと会員一同念じております。
|